くちづけの牧場の仕切りは人間関係で造る。柵の配置を考えているときには、人間関係と人間関係の関係を考えることになるから、しぜんと俯瞰視点になってしまう。なりたくなくてもそうなってしまうから、目高で眺めようとすると、飛び立たないために羽ばたき続けなければならない。
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◆おないどしの三粒の砂◆
砂浜が波打際を声帯にして、子どもの頃の話をしてくれるのだが、ひとつの話に聞こえない。陽光にきらめきながら鉱物の思い出の群れが泣き笑いして砕ける。岩塩類はとくに旅慣れていて話好きだ。以前ぼくの血管を流れたことがあるものたちが、今ぼくの血管を流れるものたちに昔話を始める。退屈していた細胞や組織が、耳をそばだてる。ブームを追いかけるようにぼくの耳もそばだつが、塩の話を聞く耳としては大き過ぎてやはりひとつの話に聞こえない。
家に帰り、なにげなく頬を擦ると、机の上に三粒の砂が落ちる。そっくりに見える。齢を訊くと桁は多いがぴったりおなじ数を言う。そんな齢には見えない。