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雪雪/醒めてみれば空耳

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2006-03-05 叙景集

_ 658

月に吼えてみろよ図書館。

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_ 659

戦端は夜半に開かれ、払暁を待たずに決着した。

ゆうべ国境線が私の部屋を、ものすごい勢いで通過していったはずなのだが、ぐっすり眠っていて気付きもしない。

一晩寝て起きたら、そこは隣国。

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_ 660

量子力学の多世界解釈が主流となり、あらゆる可能性が別の宇宙として実現していることが常識になったので、断末摩のとき脳裏を駆け巡る回想の走馬灯が、いつまでも、もしくはどこまでも終わらない。

その多元パノラマ視現象の系列の中には、奇跡的に命拾いをする一縷の可能性も含まれていて、その人生で私は、九死に一生を得た体験を格好の酒席のネタにしている。「こうして語りまくっているところまで見たんですよー、あのとき」と語っているところまで見たんですよ。

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_ 661

考え事をしていたのでわたしは、ちょっとのぼせそうになっています。

湯の中で揺れる陰毛を眺めているとなにかに似ている気がする。そう、とても怖いことを思い出してしまう直前に、心の底の方にぽっと点る熱のない炎が、こんなふうに黒く揺らぎますよね。

わたしの物思いに気付く素振りもなく陰毛たちは、「ここはどこ? どうしてここにいるのかしら?」てんでに辺りを見廻しています。

前に性器を使用してからの日数を鑑みると、陰毛はおそらくぜんぶ生え変わっているので、なんにも憶えていないのが道理です。

そこはどこなのか、陰毛たちに近いうち教えてあげられればと思う。