◆黄昏の家族◆
二階の寝室も、がらんどうになっている。夫は窓辺に腰掛けて暮れ方の景色を眺めている。
「加藤さん、出て行っちゃったの?」
妻の声に、夫は振り向く。「この家もすっかり“出る”って噂になっちまって・・・・また家賃下げるしかないよ」窓枠にことんと、頭をもたせかける。「おまえ、ちょっとぼんやりして見えるなぁ・・・・」夫はしばし言い淀んでいるが、意を決して言う。「なあ、そろそろ成仏してくれないかな」
妻はひんやりした刃を胸に押し当てられたように思う。ああ、この人は、どうしても死んだのは私のほうだと思いたいらしい。夫のほうこそ、向こうの景色が透けて見えそうなほど影が薄い。「ぼんやり見えるのはあなたのほうがぼんやりしているからよ」そう言いそうになる自分を、両手で抑える。
階段を駆け上る音が淡くひびく。息子が飛び込んでくる。ネクタイを緩めてさえいない。「とうさん!かあさん!ここに来ちゃだめって、あれほど言ったじゃないか!また店子が出て行っちゃったよ!」叫び声が遠い。
西日を正面から浴びて、古い写真のように見える息子を、夫は眼を細めて見遣る。息子の怒りなど感じてさえいない。「うんうん。いつまでもあの頃のまま、変わらないなぁ、おまえは」独り言のように、そう言って微笑む。
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「天気予報」が最終回を迎える。