時間の流れとぴったり同じ速さで考えていると考えはぜんぜん前に進まない。
地球の自転と同じ速さで旅しているときの時刻のように。
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よろめくことができる場所を探しているものがあればそのひとが脚だ。
銭湯で、つるっと滑った人が、どこまどもどこまでも滑っていった。
やがて壁のペンキ絵の富士の稜線を、向こう側からよじのぼって姿をあらわす裸体の人影。遠すぎてさだかではないがあの人だ。
寒くないのか。寒いはずだ。湯をかけてあげる。
自分の死期を悟ったが時の流れは速く日々の雑事にかまけているうちその日は過ぎてしまっている。葬式の手配をすることさえ忘れていた。
まあいいや、このまま墓に入れば。
どれもこれも妻の顔に似た隕石が降って来るという占いを信じない。