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雪雪/醒めてみれば空耳

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2006-01-24 叙景集

_ 638

思い出せることをぜんぶ思い出してみるための世界は、もとの世界よりずっと大きい。

少ない素材で大きく展開できるからです。

なので重さはずっと軽い。

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_ 639

◆旅先が旅する国で◆

風が向きを変え潮の香が漂ってくると国土が船であったことを思い出すのです。

積荷である私達のたましいは、今生のうちに無事売却されるものかはさだかでありませんが、水平線に沈むときの太陽はべったりとして、日一日と大きくなっております。

右舷の廃墟に残った三半規管塔にのぼって、太陽のたるんだ脇腹のあたりに眼をこらせば、茫漠たる意味の碑文をあらわす鳥肌が、眼に入る砂のようにごろごろと読めましたし、吹くものは風であるとは限らず、塔のぐるりをめぐる階段を降りる私の足元で触れもしない土埃が縦に舞い上がるのは、片隅で心が乱れているせいでした。

傾く空からこぼれてくる羽ばたく水のようなあおじろい媒質を呑めば、膨らむ肺に撓められた私の肋が発情期のさえずりでほころぶのが聴こえます。右半身だけは春で。たんたんと階段を踏むようにぬるんで。

寄せることばと飛び立つことばが擦れ違って、なかぞらのあたりでずるずるっと体側をこすりあう感触は私の腋のあたりにもさんさんと滲んで参ります。漂う触覚。それは風と区別がつかず。

「もう教えることはなにもないよ」

言って眠りについた森を抜ける頃、東北東に嵐のけはいして、私の肺のなかにもして、ざわめくのは血流に揉まれ旅する街々。

外で行き着き、内で行き着くその先に、名前の綴りはおなじふたつのものが待ち。

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