_ ベクシンスキーが亡くなったのを、最近まで知らずにいた。
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悲鳴や苦悶を画に描いたような、大切な人の生傷を嗅がされるような、暗い画風だった。そういう部分を前面に押し出した画は、あまり好きではないんだけれど、ベクシンスキーの場合は、苦痛を、祈りのように描く。彼方まで届いて、せめて神の肌を傷付けようとする刃のような祈り。その無謀で禍々しい壮大さが好きだった。
ものすごく怖がりだったのに、無惨な殺され方をした。まるでバチが当たったみたいに。
(―死ぬのは怖くない。死ぬまでの過程が怖い。死ぬまでに長く恐怖と苦痛を味わうような死に方はしたくない。死ぬと気付かないうちに死にたい―生前そのように語っているのを、どこかで読んだ気がする)
神様の価値観は人間とは異なっており。
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追悼ということで、エディシオントレヴィルから唯一の邦訳画集が復刊されている。持っている洋書と、だいぶ作品がかぶっているので迷っているのだがやはり素晴らしい。
しっとりして肉感的なのに、ざらざらに荒涼として。
耳が聴こえず眼も見えず雷についての知識もない人が察する雷のけはい。そういうひびきが腹に溜まる。そして荒天がそうであるように、おどろおどろしさにかすれて消えがてな爽やかさが、ふと鼻の奥を冷たくする。