通い慣れた街並だというのに、夜闇にまぎれれば迷ってしまう。
そんなふうに脳内に夜がきて、いつもの筋道が見慣れない考え。
そんな街角で街灯がぼんやり、視程のむこうまで続いている。
だんだん滲みながらちいさくなって
道ではないのだけれど通れる場所を
教える。
考えのなかから思考が出て行く刻限。
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もうそんな時間?
もうそんな時間?
もうそんな時間?
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残響で、まとまらない考えが、思考にぶつかってくる。
夕まぐれの羽虫のように。
顔にかかって、前からくる羽虫ばかりが気になるけれども、後ろからもくる。
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雪の上で砕けた炭のように、冬の野の上に葬列がある。
誰にとっても謎めいてあるような女にとって謎めいている男が、葬列の中に混じっている。その謎を言い当てる人はいま、棺のなかにのんびりといる。今後永久にのんびりしていてくれるようにと女は祈る。
その横顔を盗み見て男は、「心配事のある女はうつくしい」と思う。
心配事の質が、女のうつくしさを決定する。
そう言った人は今、この情景の視界内にいない。
太陽はゆっくりと昇りながら、じぶんが昇っていくごとにうつろう、物の影の長さを測っている。
影がひとつ、みずからが何ものの影なのかを、気にしはじめる。
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