いちまいの葉書きから樽の雨が降りさす。
はがねの明るさでめぐり逢った田園と水。
やわらかい泥土をよそおった貝殻をまんめんの笑みにうずめ
降る。
そばの地平にぶらさがってたうつろいの色も
もう垂直にさざめく波となって
黒い鳥を向こうへ追いやる。
野はまばらな木立が形づくられはじめた。
見るまに生育、でかい雲の階段を築きあげる。
なんとも身近な匂いのする。
この景色をからかうのは今日でもいいし、
べつに十年後だってかまわない。
葉書きをしたためる人、
あんたがその波を飲みほせるなら。
急斜面。
背なかから左腕へ落ちる。
しぶきをあげる急斜面。
蜻蛉の視覚へと背走する。
とげのある花束をかいくぐっていく。
見る ウサギの片足。
折れ曲がってゆく鋭角の剣を、俺がもし引き抜いたら
空のあぶくに絡まった細い髪の毛も
ふとコケティッシュな調和を取り戻す。
その髪。
散らばった暗がりだ。
井戸の底に落ちたよう。
紙煙草の指に、ディナーの一品目が恭しくかしずく。
薄やかな季節を隔てて、夕暮れが行進する。
水は翳みたいに寄りそって。
雷雨のせなかにふくよかな旗がのぼる。
白い布地に、女たちがじっとしている。
おたがいに呼び名を取りかえたりしながらも、
関心のなさは偽ろうとしないで、
めいめいの思いでに満ちあふれて。
そんなとき、時間はみずみずしい陰鬱な顔をする。
女たちは立ちあがって、てんでに歩きはじめるが、
ひとりひとりの色調と歩調は
眼を驚かせるように、いとも鮮やかに移り変わり、
ひとときもとどまることがない。
女の子は、熊の足音を抱きかかえている。
もの静かな四つの響きに
今、負ったばかりの爪の傷が見えかくれして
蜂蜜がしたたり落ちる。
洋菓子の焼ける甘い匂い。
横木にもたれて
パパの帰りを待っていると
凧糸のような自分自身の眼差しを
カレンダーの今日に縫いとめておきたい思いにかられる。
ちょっと悪戯な思いつきで、
かろやかにステップを踏む。
冬の日射しをすこし蜂蜜にまぜておく。
自転車のベルが坂道の遠くから、勢いよく降ってくる。
突然の稲妻のあと、娘の耳が消え失せる
残ったのは小さな陶製の豚
つるっとしたすてきな耳だったのにね
静寂から笑いがあふれて止まらない
つぎつぎと暗闇の海綿に吸い込まれて
燃えあがるような娘の眼つき
動物の瞳が暗く澄みわたっていくので
私はべつの旅行の支度をはじめる
ひとつの旅が終りからはじまる
知らぬまに
くちごもった赤んぼのブルース
ぶったたかれながらくちずさむ
瞑想的な雄山羊のブルース
くり返すこのうとましい想いに
離れたくなくてもあっけらかんと
忘れてしまう
逆録音にがい春のジャズ別れを告げて
うららかに
浮かれたつ性欲
このうれしさ
よせてはかえす
群生の矛先へ
収斂する仏
雲のうえに広げた
慈愛を感じ
生命のない賛歌
歌え
夜の地鳴り
おまえはいつも僕をてこずらせる