新婚旅行のうちに九つの季節が巡る。帰りついてみれば、住みなれた街はすっかり廃墟と化している。
街を見晴るかす丘に、見たことのない聖堂の群れが寄りあつまっている。行くあてのない私の足は自然と丘の方角に向かう。ある聖堂のファサードはま新しく、他のものは古い。異なる時代の様式で造形されているのだが、一様に未完成の雰囲気がある。鐘楼は沈黙している。誰もいない。私は旅で疲れた心をうつろな身廊に遊ばせる。
柱の奥に大きな影がよぎり、私はびっくりして足を止める。孔雀が顔をのぞかせている。そいつはついと暗がりに身を隠す。私はとっさになにかを与えて手なずけようと思うが、なにも持っていないことに気づく。様子を窺っていると、孔雀はそろりと明かりのもとに出てくる。私はどうすればいいか分からない。
やつは祭壇に飛び乗って身じろぎしている。のろのろと羽を開く。暗い色をした無数の瞳が私をしっかりととらえる。私と孔雀は陰にこもった穏やかな挨拶を交わす。
壁画の一つには、明るい色調の青が広がっている。私は一人だが、妻のことを思い、満ち足りた気持ちになる。